Torsion Angular Bin Strings (TABS): 分子フレキシビリティの離散表現と定量化
Braun, Katzberger, Landrum & Riniker (ETH Zurich) — J. Chem. Inf. Model. 2024, 64, 7917-7924 | DOI: 10.1021/acs.jcim.4c01513
🎯 各二面角をビン量子化した整数ベクトルでコンフォマーを表現。RMSDのサイズ依存問題を回避し、nTABSでコンフォメーション空間サイズの上限を2D記述子から推定
① 背景と課題

分子フレキシビリティ(柔軟性)は創薬・物性予測で頻用されるが定量化が難しい。多くの計算ワークフローではコンフォメーションアンサンブルを意味ある代表構造へ縮約する必要があるが、その定義とアンサンブルの完全性の保証が困難である。

回転可能結合数:整数値で粗視的、結合種ごとの自由度差を無視、定義が一意でない
Kier φ指数:立体異性体・位置異性体を区別できず、空間サイズ推定に不向き
heavy-atom RMSD:適切なしきい値が分子サイズに依存する既知の問題

→ トーション空間を離散化したTABSと、その総数nTABSで上限推定を与える

② TABS / nTABS 手法
回転可能結合 (SMARTS)

ETKDGv3トーションプロファイル
(CSD由来・フーリエ級数, 最大多重度6)

導関数から多重度・ビン決定

二面角をビン番号へ量子化
= 整数ベクトル TABS

nTABS = Σ代表TABS(対称性縮約後)
nTABS
コンフォメーション空間サイズの2D上限推定子

小中員環(3-11)は文献由来の状態数で置換、マクロ環(12-16)は補正上限を使用。グローバル対称性はグラフ自己同型で畳み込み(最小整数を代表に)。

③ 計算化学パイプラインへの応用
  • lib/md: RMSDAnalyzerの前段にTABS離散化を追加。O(N)でアンサンブル被覆率を高速チェック
  • lib/md: nTABS上限に対するコンフォマー生成の充足度判定
  • lib/molgen: nTABSをMolgenYamlのフレキシビリティフィルター/スコアラーへ
  • lib/docking: 配座空間サイズに応じたサンプリング数の自動調整
実装ギャップ: TABS離散表現・ETKDGv3導関数からのビン抽出・環状態テーブル・自己同型畳み込みがlib/mdに未実装
④ 主な結果 (a) TABS vs RMSD 一致度
80% >80% TABS vs RMSD <60% RMSD vs TFD 0% 100% PPV/NPV 一致度

Platinumデータセット(4548化合物)の低/中/高フレキシビリティ全群でTABS vs RMSDはPPV・NPVともに80%超。一方RMSD vs TFDは60%を超えず、TABSの方がRMSDと整合的。

④ 主な結果 (b) nTABS vs 実アンサンブル
y = x log nTABS log 実アンサンブル数 中央偏差 -0.3 log単位

500,000コンフォマーをRMSD 0.5 Åでpruningした実アンサンブルサイズとlog-logで良好に相関。差の中央値が-0.3 log単位とわずかに負で、nTABSが上限推定子として機能することを確認。

④ 主な結果 (c) 環状態数 & 性能
環サイズ状態数
3 / 4 / 51 / 3 / 11
6 (cyclohexane)15
9 / 11115 / 331
12 (macrocycle)16,549
16 (macrocycle)899,394
1-1.5 ms
cyclohexane 1コンフォマーあたりのTABS計算 (線形 O(N))

RMSDクラスタリングの O(N²) に対しTABSはO(N)。chair/boatはRMSD 0.33 Å(0.5 Å閾値では同一視)でもTABSは正しく区別。

⑤ テイクホームメッセージ
  • 二面角ビン量子化の整数ベクトルTABSでコンフォマーを離散表現し、トーション空間を高速に解析
  • nTABSは2D記述子ながらコンフォメーション空間サイズの上限を直接推定(中央偏差 -0.3 log)
  • RMSDのサイズ依存問題を回避しつつ小員環構造(chair/boat)を区別可能
  • 立体化学・位置異性体を区別(Kier φの弱点を克服)
  • RDKit/ETKDGv3ベースで実装公開、任意のケムインフォプロジェクトに導入可
限界: CSD結晶構造由来プロファイル依存(溶液/気相は将来課題)、TABS間距離未定義、局所対称性は非縮約で過大評価、>16員環は非推奨。